レイヤードセキュリティ:企業向けの包括的なガイド
信頼を築くプロトコル術
2025年1月29日
著者: Ayan Bhuiya
翻訳: 逆井 晶子
この記事はPowerDMARCのブログ記事 Layered Security: A Comprehensive Guide for Businesses の翻訳です。
Spelldataは、PowerDMARCの日本代理店です。
この記事は、PowerDMARCの許可を得て、翻訳しています。
2023年には、米国企業の4社に3社が重大なサイバー攻撃のリスクに晒されていたことをご存知ですか?
ビジネスの世界はますますデジタル化しています。
それに伴い、サイバー攻撃の数も指数関数的に増加しています。
これらの攻撃は、財務的損失から評判の問題に至るまで、深刻な結果をもたらします。
このような状況で防御層が1つだけでは、大きな損害を招くおそれがあります。
レイヤードセキュリティは、重複した防御を構築する方法です。
それは非常に包括的な手法を提供し、さまざまな層にわたる対策を組み合わせます。
これには、物理的、ネットワーク、エンドポイント、アプリケーション、データの各層が含まれます。
レイヤードシステムは技術的なツールだけにとどまりません。
このシステムには、従業員トレーニング、IDとアクセス管理、インシデント対応計画という3つの重要な要素も含まれます。
このガイドでは、レイヤード防御戦略の構成要素を紹介します。
続きを読んで詳細を学びましょう。
重要なポイント
- レイヤードセキュリティは、複数の防御対策を組み合わせてサイバー脅威から包括的に保護します。
- 防御の重層化を実施することは、マルウェアや内部攻撃など多様な脅威から守るために極めて重要です。
- 効果的なレイヤードセキュリティには、物理、ネットワーク、エンドポイント、アプリケーション、データのセキュリティだけでなく、従業員トレーニングやID管理も含まれます。
- 重複するセキュリティ層によりリスクが軽減され、重要なデータやシステムを保護する冗長性が確保されます。
- レイヤードセキュリティを包括的に導入するには、ニーズの評価、ポリシーの策定、および事業要件に合わせた適切なツールの導入が必要です。
レイヤードセキュリティとは何ですか?
レイヤードセキュリティ、または「多層防御」とは、サイバー防御戦略の一つです。
組織を脅威から守るために、複数の対策を使用します。
これは、1つの防御策だけを使うのではなく、さまざまなレベルに技術と実践を加えることを意味します。
これにより、強力で完全なフレームワークが構築されます。
なぜレイヤードセキュリティが重要なのですか?
レイヤードセキュリティの重要性
このシステムがビジネスにとって重要な4つの理由を紹介します。
- 多様な脅威
-
サイバー攻撃にはさまざまな形態があります。
それにはマルウェア、ランサムウェア、内部脅威などが含まれます。
1つのソリューションだけでは、これらすべてのリスクに対応できません。 - 冗長性
-
複数の層により冗長性が確保されます。
ある対策が失敗した場合でも、他の層がセーフガードとして機能します。 - コンプライアンス
-
多くの業界では、厳格なセキュリティ(GDPRやHIPAAなど)が求められます。
レイヤード戦略は、多くの場合、これらの要件を満たします。 - リスク軽減
-
異なるレベルの対策で、脆弱性への対応を強化します。
これにより、重大な情報漏洩のリスクを削減することができます。
レイヤードセキュリティ戦略の主な構成要素
この戦略にはいくつかの重要な要素があります。
- 1. 物理的対策
-
デジタル脅威に対処する前に、物理的な防御手段を整える必要があります。
ネットワークへの不正な物理的アクセスは、システムを危険にさらします。すべての物理的なセキュリティ要素が正常に機能しているか確認しましょう。
これには、キーカード、生体認証システム、監視カメラやIPカメラなどの監視機器が含まれます。
さらに、重要なインフラストラクチャを守るために、サーバールームへのアクセスを制限しましょう。 - 2. エンドポイントセキュリティ
-
サイバー犯罪者はしばしばエンドポイントを標的にします。
ノートパソコン、デスクトップ、スマートフォンなどを保護する必要があります。
以下の手段でエンドポイントを守ることができます。- アンチウイルスおよびマルウェア対策ソフトウェア
脅威を検出し除去します。
デバイスを悪意のある第三者から守ります。 - デバイスの暗号化
デバイスを紛失した場合でも、機密データを保護します。 - モバイルデバイス管理
業務用のモバイルデバイスを制御・保護します。
- アンチウイルスおよびマルウェア対策ソフトウェア
- 3. ネットワークセキュリティ
-
ネットワーク防御は極めて重要です。
これは、不正アクセスやデータ漏洩を防止します。
以下の機能が含まれます。- ファイアウォール
ゲートキーパーとして機能し、事前に定義されたルールに基づいてネットワークトラフィックを制御します。
ファイアウォールはネットワークパケットを検査し、その送信元、宛先、内容を分析します。
これにより、パケットのアクセスを許可するかどうかを判断します。 - 侵入検知システム(IDS)
IDSはネットワークトラフィックを監視し、脅威を検出するとアラートを出します。 - 侵入防止システム(IPS)
IPSは攻撃をブロックまたは防止します。
ネットワークトラフィックのパターンやシグネチャを分析し、ポートスキャン、DoS攻撃、マルウェアなどの不審な挙動を特定します。 - VPN
信頼されていないネットワーク上に暗号化されたトンネルを作成します。
これにより、従業員はどこからでも企業リソースに安全にアクセスできます。 - ネットワークセグメンテーション
ネットワークを小さく隔離されたサブネットに分割します。
このアプローチにより、侵害が発生してもその影響を特定のセグメントに封じ込めることができます。
- ファイアウォール
- 4. データセキュリティ
-
機密データの保護は、企業にとって最優先事項です。
企業はこれをいくつかの方法で実施しています。
たとえば、保存時および送信時のデータを暗号化します。また、ロールベースアクセス制御(RBAC)を使用します。
これにより、認可された担当者のみが機密データにアクセスできるように制限されます。
さらに、定期的なデータのバックアップと安全な保存も含まれます。
これらの手順によって、企業はハードウェア障害などのデータ損失から回復することができます。
また、災害復旧も容易になり、迅速かつ効率的に復旧することで、損失を最小限に抑えることができます。 - 5. アプリケーションセキュリティ
-
アプリケーションは現代のビジネス運営に不可欠です。
機密データを保護するためにも、それらを確実に保護しなければなりません。
このようにして、ビジネスの継続性を維持し、信頼を保つことができます。しかし、ソフトウェアには多くの脆弱性が存在します。
攻撃者はこれらの欠陥を利用して、システムへの不正アクセスを行います。
ソフトウェアを定期的に更新・パッチ適用し、Webアプリケーションファイアウォールを導入しましょう。
これにより、Webトラフィックを監視し、悪意のあるリクエストをブロックできます。
よくある攻撃は以下の通りです。- SQLインジェクション:データベースクエリの脆弱性を突く攻撃です。
- クロスサイトスクリプティング(XSS):Webページに悪意あるスクリプトを注入します。
- クロスサイトリクエストフォージェリ(CSRF):ユーザに意図しない操作をさせる攻撃です。
- 6. IDおよびアクセス管理
-
これは、誰がシステムやデータにアクセスできるかを制御することで、リスクを軽減する取り組みです。
以下の対策が含まれます。- 多要素認証(Multi-factor authentication, MFA):複数の認証手段を要求します。
- 強力なパスワードポリシー:複雑で定期的に更新されるパスワードの使用を義務付けます。
- 特権アクセス管理:特権アカウントの監視と管理を行います。
- 7. 従業員トレーニングと意識向上
-
従業員はサイバー脅威に対する最前線にいます。
彼らには継続的なトレーニングが必要です。
啓発プログラムを使用して、従業員にフィッシングメールの識別方法を教えましょう。
強力なパスワードの使い方や、機密データを扱う際の安全な方法を、自然と身につけられるようにしましょう。トレーニングには、セキュリティに関するテストやシミュレーションも取り入れるのが効果的です。
たとえば、模擬フィッシング攻撃を活用すれば、実際の場面に近いかたちで学びを深めることができます。従業員一人ひとりが、セキュリティ対策における自分の役割を理解することが大切です。
セキュリティ意識を日常に根付かせることで、ヒューマンエラーのリスクを減らせます。
また、インシデントをすぐに報告し、会社のルールを守る習慣を育てることも欠かせません。
こうした取り組みにより、誰もが安心して働けるデジタル環境づくりに貢献できます。 - 8. インシデント対応計画(Incident Response Plan, IRP)
-
IRPは、セキュリティインシデントの特定、封じ込め、回復に役立ちます。
この計画には、明確な役割分担と責任が定められており、エスカレーションや連絡のためのプロトコルも含まれます。
計画では、検知・封じ込め・排除・回復の各段階をカバーする必要があります。
さらに、事後分析を取り入れることで、将来のインシデントを防ぐ対策につなげることができます。チームには、訓練やシミュレーションを通して実践的な対応力を養うことが求められます。
これにより、プレッシャーのかかる状況でも落ち着いて行動できるようになります。
また、すべてのインシデントは記録しておくことが大切です。
こうした記録は、将来的な対応戦略の改善に役立ちます。よく設計されたIRPは、被害を最小限に抑え、ダウンタイムを短縮します。
さらに、セキュリティ侵害の発生中およびその後においても、ビジネスの継続性を確保することができます。
ビジネスにおけるレイヤードセキュリティの導入方法
ここでは、データに対して複数のセキュリティ層を実装するための包括的なアプローチを紹介します。
次の8つのステップに従いましょう。
- 1. ビジネスのセキュリティニーズの評価
-
ビジネスの規模や業種によって、受ける脅威の種類は異なります。
たとえば、金融機関は資金を狙うサイバー攻撃の標的になりやすく、多層的なセキュリティが必要になります。
一方で、医療機関は法規制を遵守するために堅牢なセキュリティ対策が求められます。
自社の立ち位置を理解し、適切な判断ができるようにしましょう。重要資産を特定することが第一歩です。
これには、業務の中核を担うインフラストラクチャ、顧客データ、財務記録、そして、レシピや特許などの知的財産が含まれます。
このステップにより、業務の優先順位を明確にし、最も守るべきものが何かを把握できます。同様に、脆弱性を評価することも必要です。
古いソフトウェア、トレーニング不足の従業員、保護されていないリモートアクセスなどは、ハッカーが侵入するための入り口になります。メールセキュリティの評価も重要です。
フィッシングやなりすまし攻撃は今もなお大きな脅威です。
DMARC、SPF、DKIMなどのプロトコルを導入して、メール通信のセキュリティを確保し、ドメインの不正利用を防ぎましょう。攻撃者がどのように、なぜアクセスしてくるのかを理解することが最初のステップです。
既存の防御層とその弱点を徹底的に見直しましょう。 - 2. セキュリティポリシーの策定
-
使用するセキュリティツールや手法を詳細にまとめたポリシーを策定しましょう。
明確な期待値と手順を設定することが重要です。
安全なパスワード、暗号化、MFAの要件を含めましょう。
こうした基本的な基準を設定することで、従業員の行動指針となります。また、従業員トレーニングの要件もここに記載してください。
定期的なセキュリティ研修を義務づけ、スケジュールや実施基準を設定しましょう。
同様に、IRPの詳細もポリシーに盛り込みます。このポリシーは、組織の目標と一致している必要があります。
それにより、レイヤード防御の文化を根付かせることができます。さらに、各従業員の役割に応じた要件に調整しましょう。
たとえば、経営層には高度なフィッシング攻撃を見抜くための指針を、カスタマーサービスの担当者には、よくあるソーシャルエンジニアリングの対処法を指導する必要があります。
こうすることで、組織全体でセキュリティを守る意識を高めることができます。 - 3. 物理的セキュリティの実装
-
物理的セキュリティは、最初の防御層です。
どんなにネットワークが安全でも、攻撃者が物理的にインフラストラクチャへアクセスできてしまえば無力です。
まずはアクセス制御から始めましょう。施設やサーバールームへの立ち入りを制限します。
キーカード、生体認証、PINコードなどを使用できますが、ここでもMFAの導入が理想です。
たとえば、指紋認証とキーカードの組み合わせなどが有効です。重要な要素のひとつが監視カメラの設置です。
一見不要に思える場合でも、万が一に備えて設置しておくことをおすすめします。
死角のないようにカメラを配置し、万が一の際には証拠としても活用できます。組織の規模に応じては、セキュリティチームの導入も検討しましょう。
それにより、サイバーセキュリティの脅威にも素早く対応できます。
また、古い機器の処分にも注意が必要です。
情報の入った古いUSBやハードディスクは、廃棄前に破壊または完全消去してください。
これにより、データが第三者に復元されるリスクを防げます。 - 4. 周辺セキュリティの導入
-
周辺セキュリティは、ネットワークと外部の脅威との境界を保護します。
ファイアウォールを設置し、不正なユーザがネットワークに出入りするのを防ぎます。これが最初の防御層です。次に、IDSおよびIPSを導入し、より包括的な保護を実現します。
VPNを使用してトラフィックを暗号化し、リモートワーク時の安全性を高めましょう。
不審なアクティビティを監視して、侵害の兆候を早期に察知することも大切です。
ファイアウォールやVPNの設定は定期的に見直し、技術の進化に対応しましょう。 - 5. ネットワークセキュリティの活用
-
ネットワークの分割は、多層的なセキュリティアプローチにおいて不可欠です。
ネットワークを分割・隔離し、それぞれを個別に管理することで、攻撃者が一部のネットワークに侵入しても、他の部分に移動できないようにします。
ネットワークトラフィック分割ゲートウェイを導入し、専用ハードウェアでネットワークセグメントを分離します。
各セグメントにトラフィック制御プロトコルを適用し、流れる通信内容を制限します。
各ゾーンに対して適切なセキュリティプロトコルを設定しましょう。さらに、アクセス制御リスト(Access Control Lists, ACL)を活用します。
ACLは、どのユーザがネットワークにアクセスできるか、どの操作を許可するかを定義します。
ルーターやスイッチでACLを構成し、ファイアウォールと連携させて、出入りするトラフィックを制御することができます。 - 6. エンドポイント保護の導入
-
適切なレイヤードセキュリティを実現するには、エンドポイントの保護が欠かせません。
その具体的な内容については、前述の「エンドポイントセキュリティ」をご参照ください。 - 7. データ暗号化の実施
-
保存中および転送中のデータは、どちらも確実に保護する必要があります。
以下はそのための具体的な方法です。- 保存データの暗号化
暗号アルゴリズムを使用して、データを暗号文に変換します。
復号には鍵が必要であり、ファイル、フォルダー、ディスク、データベース、バックアップなどのデータに対して暗号化を施します。
- 共通鍵暗号(対称鍵暗号):1つの鍵で暗号化・復号を行う方式で、処理が速く、静的データに適しています。
- 公開鍵暗号(非対称鍵暗号):送信側と受信側で異なる2つの鍵を使用し、受信者のみがデータを復号できますが、処理速度は遅く、構造も複雑です。
AESやRSAなどの強力な暗号化規格を使用しましょう。
- 転送データの暗号化
データが移動する際には、SSL/TLSプロトコルを使用して暗号化します。
WebアプリケーションにはHTTPSを有効にし、リモートアクセスにはVPNを利用してください。
- 保存データの暗号化
8. 認証およびアクセス制御の実装
MFAとRBACを導入しましょう。
また、最小権限の原則を適用し、ユーザには業務に必要最小限のアクセス権だけを与えます。
アクセス権限は定期的に見直し、各従業員の役割と一致しているかを確認するようにしましょう。
まとめ
レイヤードセキュリティは、大企業だけのものではありません。
中小企業もサイバー攻撃のリスクに常に晒されています。
堅牢なセキュリティシステムの構築は簡単ではありませんが、小さなステップに分けて取り組めば実現可能です。
そうすることで、あなたのビジネスにとって強力な防御を築くことができるでしょう。
レイヤードセキュリティに関するよくある質問(FAQs)
- Q: このシステムは従来のセキュリティ対策とどう違うのですか?
- A: 複数のセキュリティ層を持つことで、一つの層が破られても、他の層がデータを守ります。
- Q: レイヤードセキュリティシステムはどれくらいの頻度で更新または見直しすべきですか?
-
A: 理想的には3〜6ヶ月ごとに見直しましょう。
ただし、新たな技術進展があれば随時対応するべきです。 - Q: このセキュリティモデルを導入する際の一般的な課題は何ですか?
- A: よくある課題には、複数のツールの統合、従業員トレーニング、複雑なセキュリティ層の管理があります。
- Q: レイヤードセキュリティは内部脅威に対してどのように保護しますか?
- A: 監視、アクセス制御、暗号化を活用し、許可された人物だけがデータにアクセスできるようにします。
- Q: レイヤードセキュリティの導入コストはどのくらいですか?
- A: 会社の規模やニーズによって異なりますが、通常はソフトウェア、ハードウェア、管理への投資が必要です。
- Q: レイヤードセキュリティはクラウドサービスとどのように統合されますか?
-
A: クラウド向けの専用ツールを使用します。
たとえば、クラウドファイアウォール、暗号化、多要素認証などが該当します。