ゼロトラストネットワークアクセス ー サイバーセキュリティにおける暗黙の信頼の終焉
2025年2月15日
著者: Ayan Bhuiya
翻訳: 古川 綾乃
この記事はPowerDMARCのブログ記事 Zero Trust Network Access: Ending Implicit Trust in Cybersecurity の翻訳です。
Spelldataは、PowerDMARCの日本代理店です。
この記事は、PowerDMARCの許可を得て、翻訳しています。
ZTNAは、ハイブリッドワーク環境対して厳格なアクセス制御を導入することで、「信頼してから検証する」モデルに代わるものです。
このパラダイムシフトが、侵害リスクの最小化、コンプライアンス対応の強化、クラウド中心環境へのスケールにどのように寄与するのかを解説します。
従来のセキュリティモデルは、データがクラウド間を移動し、従業員がどこからでも働けるようになった現代では崩壊しつつあります。
ゼロトラストネットワークアクセス(ZTNA)は従来モデルを根本から転換し、ユーザーやデバイスを初期状態では信頼しないという前提に基づいて動作します。
VPNがネットワーク全体への入口を開放してしまうのに対し、ZTNAはアプリケーションを分離し、横方向の移動を制限し、最小権限の原則を適用します。
このフレームワークは単なる流行語ではなく、現代のセキュリティに不可欠な基盤です。
重要なポイント
- ZTNAは暗黙の信頼を排除し、認証後にのみアクセスを許可することで、侵害のリスクを低減します。
- マイクロセグメンテーションは横方向の移動を制限し、1つのアカウントが侵害された場合でも攻撃者が複数のシステムに侵入するのを防ぎます。
- VPNよりもパフォーマンスを向上させ、トラフィックを中央のハブにルーティングすることなく、アプリケーションへの直接的かつ安全なアクセスを提供します。
- PCI DSS、GDPR、HIPAAなどのコンプライアンスを、厳格な認証とアクセス制御の実施によって支援します。
- 柔軟な展開方法としては、デバイスの深いセキュリティを可能にするエージェントベースのZTNAと、BYOD環境向けの2種類が存在します。
ゼロトラストネットワークアクセス(ZTNA)とは
ゼロトラストとは、ユーザー・デバイス・接続などのあらゆるエンティティを、認証後であっても「本質的には信頼しない」ことを前提とするセキュリティモデルです。
ZTNAは、「すべてを初期状態では拒否し、アクセス許可の前に必ず検証する」というシンプルな原則に基づいて動作します。
ユーザーやデバイス、接続元の場所に関わらず、すべてを潜在的な脅威として扱います。
一度認証されると広いネットワーク範囲にアクセスできてしまうVPNとは対照的に、ZTNAでは必要なアプリケーションにだけアクセスが許可されます。
ZTNAではマイクロセグメンテーションによって、特定のアプリケーションごとにソフトウェア定義の境界を作り、攻撃対象領域を大きく削減します。
ZTNAの仕組み
金庫室の中にある複数の貸金庫を思い浮かべてください。それぞれの貸金庫には固有の鍵が必要です。ZTNAも同じで、ユーザーは許可された特定のリソースにのみアクセスできます。
仮に攻撃者が1つのアカウントを侵害したとしても、他の領域へ横方向に侵入することはできません。
このような高い制御レベルを実現できることから、金融業界や医療業界など、機密データの保護が不可欠な分野でZTNAは広く採用されています。
ZTNAとVPNの主な違い
ZTNAとVPNは、セキュリティに対するアプローチが根本的に異なります。
VPNは初期認証後に広範なネットワークアクセスを許可し、ユーザを「信頼を前提としたネットワーク境界」の内側に置きます。
この構造により、攻撃者によるラテラルムーブメント(横方向への移動)のリスクが高まります。
| 機能 | VPN | ZTNA |
|---|---|---|
| アクセス制御 | 広範なネットワークアクセス | アプリケーションレベルのアクセス |
| セキュリティ | 暗黙の信頼(高リスク) | ゼロトラスト(低リスク) |
| パフォーマンス | 中央集約型のトラフィックルーティング(遅い) | アプリへの直接アクセス(速い) |
| コンプライアンス | 弱い強制力 | 強力な強制力(GDPR、HIPAA、PCI DSS) |
| ラテラルムーブメント | 攻撃者が横展開可能 | マイクロセグメンテーションにより抑止 |
ZTNAはアプリケーションレベルのアクセス制御を適用し、すべてのリクエストを検証することで、ユーザが許可されたリソースのみにアクセスできるようにします。
これにより、攻撃対象領域を縮小し、不正なデータ露出を制限し、トラフィックをバックホールすることなくアプリケーションへ直接安全にアクセスすることでパフォーマンスを向上させます。
ZTNAは、アカウントが侵害された場合でも、マイクロセグメンテーションによってラテラルムーブメントを防ぎます。
VPNと従来ツールが抱える課題
従来のVPNは、オンプレミスサーバーやオフィスワーカー向けに設計されていました。
これらはユーザ認証を行いますが、ネットワーク全体への無制限なアクセスを許可するため、接続されたすべてのリソースが露出します。
脆弱なVPN認証情報は攻撃者にとって格好の標的です。
ZTNAはこのモデルを転換し、承認されたアプリケーションのみにアクセスを許可し、ネットワーク全体には決してアクセスさせません。
パフォーマンスの違いも顕著です。
VPNはトラフィックを中央のハブ経由でルーティングするため、遅延が発生します。
ZTNAでは、近くのプレゼンス拠点からユーザをアプリケーションに直接接続するため、クラウドネイティブで遅延が少なくなります。
バックホールによる遅延やデバイス健全性の確認不足といった課題を抱える従来のツールを使い続ける理由はほとんどありません。
ZTNAは、高速かつ安全なアクセスを実現します。
ZTNAの主な利点
ZTNAのマイクロセグメンテーションは、ランサムウェアを分離されたゾーンの外に留めます。
たとえば、侵害された人事部のアカウントは、財務システムにアクセスできません。
このような封じ込めにより、監査が簡素化され、GDPRやHIPAAのような厳格な規制が適用される業界におけるコンプライアンスリスクが軽減されます。
内部の脅威も減少します。
悪意のある従業員は、自分の役割で許可された情報しか閲覧できず、ZTNAはすべてのアクセス試行を記録します。
第三者リスクも減少します。
ベンダーにはVPNキーではなく、期限付きかつ限定的なアクセスが付与されます。
内部アプリケーションでさえ、認可されていないユーザーには表示されません。
- 強化されたセキュリティ制御
-
広範なアクセスを排除し、攻撃対象領域を最小限に抑えます。
マイクロセグメンテーションにより、攻撃者がネットワーク内で横展開するのを防ぎます。 - コンプライアンスの向上
- 厳格な認証とアクセス制御を強制し、GDPR、HIPAA、PCI DSSへの準拠をサポートします。
- パフォーマンスの向上
- トラフィックを中央サーバ経由でルーティングせずにアプリケーションへ直接安全にアクセスできるため、遅延が軽減されます。
- 内部および第三者リスクの低減
- 役割に基づいてアクセスを制限し、不必要なリソースを悪意のある従業員やベンダーが見るのを防ぎます。
ZTNA 2.0と業界の連携
ZTNAでは、AIが脅威の検出やアクセス判断を担うようになっています。
NISTが2024年に開催したワークショップでは、3GPPおよびO-RANとの標準化に向けた取り組みが引き続き進められました。
目的は、ゼロトラストアーキテクチャを5G/6Gのモバイルネットワークに統合し、通信インフラ全体のセキュリティを強化することです。
こうした連携により、ZTNAは企業ネットワークを超えて進化しつつあります。
たとえば、スマートフォンがZ-Waveのようなデバイス認証方式に近い仕組みで企業アプリにアクセスする前に認証を行うイメージです。
これによりVPNは不要になります。
これらの統合は、IoTやエッジコンピューティングにおける安全な接続の形を再定義していくでしょう。
ZTNAを効果的に導入する方法
- 1. 現在のITインフラを評価する
-
- 重要なアプリケーション、ユーザの役割、コンプライアンス要件を整理します。
- その上で、自社のニーズに応じて、エージェントベースZTNAまたはサービスベースZTNAのどちらが適しているかを判断します。
- 2. 役割ベースのアクセスポリシーを定義する
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- 従業員・契約社員:誰が何にアクセスできるかを明確化する
- デバイスの健全性、時間帯、場所などに基づいてアクセスを制限する
- 3. 適切なZTNA導入モデルを選択する
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- エージェントベースZTNA:デバイス可視性が高く、より強固なセキュリティを実現
- サービスベースZTNA:BYODに適した軽量なクラウドコネクタ
- ハイブリッドモデル:セキュリティと利便性の両立を図る
導入前にはポリシーを十分にテストしてください。
また、「トレーナーのトレーニング」を実施し、ZTNAが企業データと従業員デバイスをどのように守るのかを理解してもらうことが重要です。
運用後も継続的なモニタリングとポリシー調整により、柔軟性を維持できます。
組織に最適なZTNAモデルの選び方
- 1.エージェントベースZTNA(管理されたデバイスと厳格なコンプライアンス向け)
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エージェントベースZTNAは、企業が管理するデバイスに専用のセキュリティソフトウェアをインストールして利用します。
オペレーティングシステムの更新状況、アンチウイルスの状態、ITポリシーへの準拠状況など、デバイスの健全性を確認した上でアクセスを許可するため、高いセキュリティ水準を確保できます。
規制要件が厳しい組織に適しており、ネットワークへアクセスするエンドポイントを詳細に把握・制御できる点が特徴です。 - 2.サービスベースZTNA(BYODおよびクラウドユーザ向け)
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サービスベースZTNAは、ユーザデバイスへのソフトウェアインストールを必要としません。
代わりに、軽量なネットワークコネクタを介して安全なアクセスを提供します。
このため、管理されていないデバイス(BYOD)やクラウド環境に適しており、契約社員やリモートワーカーにも柔軟に対応できます。
ただし、エージェントベースZTNAほど詳細なセキュリティチェックは行わないため、厳密なデバイスコンプライアンスより利便性を重視する企業に向いています。 - 3.ハイブリッドZTNA(柔軟性とスケーラビリティ向け)
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ハイブリッドZTNAは、エージェントベースとサービスベースの両方式を組み合わせ、セキュリティと利便性のバランスを最適化するモデルです。
管理されたデバイスにはより強固なセキュリティ制御を適用しつつ、個人デバイスや外部ユーザには柔軟なアクセス手段を提供できます。
従業員・契約社員・クラウドベースのワークフォースが混在する環境でも、セキュリティやユーザ体験を損なわずに対応できるため、多様な働き方に適した選択肢です。
ZTNAの多層防御における戦略的役割
ZTNAは単体で機能するソリューションではなく、多層的なセキュリティアプローチの一部として導入する必要があります。
ファイアウォール、エンドポイント保護、暗号化などと連携させることで、防御力をより強固にできます。
たとえば、ZTNAが不正アクセスを遮断する一方、エンドポイントセキュリティは侵害されたデバイス上のマルウェアを阻止します。
物理的なセキュリティ層も欠かせません。
ZTNAがデジタル領域のアクセスを制御するのに対し、物理的にはサーバルームの入退室管理を行います。
さらに、定期的な社員教育によりフィッシング被害のリスクを下げることも可能です。
単一のツールに頼らず、複数のセキュリティ層を重ねることで冗長性と強靭性が生まれます。
認証プロトコルとゼロトラスト
多要素認証(MFA)とシングルサインオン(SSO)は、ZTNAの効果を高める重要な仕組みです。
MFAは盗まれたパスワードだけでは突破できない防御層を追加し、SSOはユーザの利便性を保ちながらアクセス制御を一元化します。
ユーザは一度ログインするだけで、許可されたアプリケーションにのみアクセスできます。
OAuth 2.0のような認証プロトコルは、検証プロセスを自動化し、人為的なミスを減らします。
また、行動分析により「深夜に異なる地点からログインする」などの不審な挙動も検出できます。
これらを組み合わせることで、ZTNAのポリシーはより動的で強固になります。
リモートアクセスを超えたZTNAのユースケース
ZTNAはリモートアクセス用途にとどまらず、合併・買収(M&A)におけるIT統合でも有効です。
M&A後のIT統合では脆弱性が生まれやすいものの、ZTNAを利用すればネットワークを統合せずに、新しいチームへ安全なアクセスを提供できます。
外部委託業者に対しても、必要最小限のツールだけを利用させ、機密データへの露出を防げます。
また、ZTNAは重要なアプリケーションをインターネット上から不可視化することが可能です。
VPN経由で外部に露出する場合と異なり、ZTNAによる難読化はスキャン攻撃を回避し、ランサムウェアのリスクを下げます。
クラウドネイティブなアーキテクチャにより、ハイブリッドワーク環境でもVPNハードウェアのボトルネックを排除し、容易にスケールできます。
ZTNAは一過性の流行語ではなく、暗黙の信頼を排除することで、分散型ネットワークやリモートワーク、巧妙化する攻撃に対して強力な保護を提供します。
慎重な計画は必要ですが、侵害リスクの低減、コンプライアンス対応の効率化、拡張性の向上など、ROI(投資対効果)は十分に見込めます。
NISTや業界リーダーが標準を洗練し続ける中で、ZTNAは次世代のモバイルおよびクラウドセキュリティの基盤となるでしょう。